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犯罪捜査ドラマと法科学・法心理学

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 子どもの頃、刑事ドラマが好きでよく見ていた。

 ホシを追う刑事が、現場近くの住人に、容疑者の顔写真1枚を見せ、「この男に見覚えは?」と聞く。その住人が大きく頷いて、「あ、あります!」といえば、写真の人物が犯人に間違いなかった。また、事件現場で採取した指紋を機械にかけると、警察で保管している膨大な指紋との照合をスロットマシーンのように高速で行う。スロットマシーンが止まり、ピタリと一致する指紋が検出されると、その指紋の持ち主が犯人に間違いなかった。

 しかし、これらのシーンは現実を反映しているものではない。

*目撃者による写真識別

 えん罪を防ぐためには、事件の目撃者に容疑者の写真を選ばせる役割は容疑者を知らない捜査官が担当し、容疑者に似た複数の人物を含む写真を一度に複数枚提示する(同時提示)のではなく、1枚ずつ提示する(継時提示)のがよい。

 Zimmerman ら(2017)は、容疑者を知る捜査官は、容疑者を知らない捜査官よりも、犯人の写真を目撃者に選ばせる際に圧力をかけることを明らかにしている。ここでの圧力は、言語的サイン(目撃者が、自分の知る容疑者以外の写真を選んだ場合に「よろしいですか?」と尋ねるなど)と非言語的サイン(特定の写真を指差すなど)の両方を含む。また、彼らは、写真を同時提示する方が継時提示するよりも圧力をかける頻度が多いこと、1週間後に目撃者が無実の者を犯人と誤識別する確率は、容疑者を知る捜査官が担当した場合の方が高いことを明らかにした。さらに、捜査官は目撃者に写真を見せる前に、「この中に犯人がいるかもしれないし、いないかもしれない」と教示する必要がある。このように教示することで、無実の人を犯人と判断する誤識別は減少する(Steblay, 2013)。

*専門家による指紋鑑定

 指紋鑑定は、事件現場で採取された犯人の指紋の特徴点(指紋の特徴。終止点、島形点、分岐点など)を被疑者の指紋の特徴点と比較、照合することによって行われ、犯人の指紋と被疑者の指紋が同一人物のものかどうかは、特徴点の類似度によって判断される(平岡,2018)。しかし、最終的な判断は人が目視で行っており、指紋鑑定の結果には複数のバイアスが生じることが指摘されている。

 Drorら(2011)は、指紋照合の結果が専門家間で異なることを明らかにしている。彼らの研究によると、容疑者の情報を知らない10人の専門家に同一の指紋を照合してもらった結果、特徴点の計測数に一貫性がみられず、特徴点の検出基準も異なった。また、専門家個人においても、同一の指紋に対する照合結果は常に一貫したものではなかった。平岡(2018)は、これらの研究結果に加え、しばしば事件現場に残された指紋が鑑定を行うには不十分である事実(数が少ない、一部が欠けているなど)、指紋鑑定者が得る事件に関する他の情報(DNA型鑑定の結果など)が鑑定結果に及ぼすバイアスについて言及し、専門家が提示する証拠資料を盲目的に信頼することに警鐘を鳴らしている。

*犯罪捜査ドラマと法科学・法心理学

 写真識別や指紋鑑定以外にも、犯人を同定する過程においてバイアスが生じる可能性が指摘されている。こうした様々なバイアスに関する法科学・法心理学の研究知見を犯罪捜査ドラマに盛り込んでもらえれば、証拠の信頼性への意識が高まってよいのではないかと思う。法科学者・法心理学者は、犯罪捜査ドラマの制作協力を惜しまないだろう。

*引用文献
-Dror, I.E., Champod. C., Langenburg, G., Charlton, D., Hunt, H., & Rosenthal, R.(2011) Cognitive issues in fingerprint analysis: Inter-and intra-expert consistency and the effect of a ‘target’ comparison. Forensic Science International, 208, 10-17.

-平岡義博(2018)法科学におけるバイアス. 甲南法学, 58, 3・4,93-111.

-Steblay, N, M.(1997)Social Influence in Eyewitness Recall: A Meta-Analytic Review of Lineup Instruction Effects. Law and Human Behavior, 21(3, 283–297.

-Zimmerman, D. M., Chorn, J. A., Rhead, L. M., Evelo, A. J., & Kovera, M. B. (2017) Memory strength and lineup presentation moderate effects of administrator influence on mistaken identifications. Journal of Experimental Psychology: Applied, 23, 460–473.


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